渋谷直角 ライター/まんが しぶや・ちょっかく/1975年生まれ、東京都出身。『フイナム』『SPA!』『食べようび』など、Webや雑誌などでコラム連載を持つ。コラム&エッセイ集『直角主義』(新書館)が発売中。春先の新刊も準備中。

パリ・ルーヴル美術館所蔵の作品を通じて、新たなアート鑑賞を提案するルーヴル – DNP ミュージアムラボの第10回展『古代ギリシアの名作をめぐって —— 人 神々 英雄』が、2月1日からスタートします。古代ギリシアといえば……“ギリシア神話”を思い浮かべる人はきっと多いと思いますが、本展でも、ギリシア神話の世界に登場する神や英雄の姿が描かれた作品が展示されます。そもそもギリシア神話は、西欧文化の根幹を成すもの。これまで世界中で神話を題材に、絵画や彫刻、演劇といった多くの芸術作品が創作されてきました。紐解けば、現代を生きる私たちとの接点やギャップの面白さが見えてくるはず。そこで今回は渋谷直角さん(ライター/まんが)が、ギリシア神話のなかでももっとも有名な英雄ヘラクレスを題材に、妄想コラムを寄せてくれました。

今回来日の作品は古代ギリシアの名作。ルーヴル – DNP ミュージアムラボの第10回展がいよいよスタート。

ヘラクレス君が転校してきたら。

 ヘラクレス、かっこいいですよね。力と仕事の象徴というか、ギリシャ神話の登場人物の中でもひと際、男らしさのシンボルとしての印象が強い。人食いの怪物猪を退治するとか30年手つかずの家畜小屋の掃除とか地獄の番犬ケルベロスの生け捕りとか、「ヘラクレス12の功業」なんていわれるハードな命令を黙々と、キチッとこなしていく感じとか、男は絶対憧れますよ。ムリですもん、僕。「いける!」とヘラクレス気分でお仕事ガンガン引き受けて、あっちもこっちもとドンドン大変になり、ぜんぶ〆切がグダグダになっていくパターンばっかりですから(この原稿も……)。学習能力ゼロ! バカ!
 で、ヘラクレスって、ゼウスが人間の女性に惚れて生まれた、いわば浮気相手の子供らしいんです。だからゼウスの嫁であるヘラがブチギレて、ヘラクレスにいろんな意地悪をしてくるんですよ。つまり、少し複雑な家庭環境の子だったわけです。「12の功業」をするきっかけも、ヘラの呪いによって自分の子供を間違って殺してしまい、その罪を償うために命じられたことらしい。そういう、いろいろ哀しい過去を持つ男なんです。
 もちろん同情しますし、可哀相だなと思うんですが、その複雑さがキャラクターとしてのヘラクレスの魅力にもなっているんです。仕事が物凄くできる、でもどこか寂しげな表情を持つ男……。こんなの、カッコ良すぎるじゃないですか? 絶対、女性がほっときませんよ! もしも、ヘラクレスが同じ学校に転校してきたら、と想像してみてください。

もう、初日からこんなんですよ。話題独占。

僕ら男子はもう、ムキー!となるけど、あの筋肉見たら絶対かなわなそうだし……、と。なおかつ、

 仕事(勉強)までめちゃめちゃ出来る。クラスの女子は完全にメロメロですよ。僕が密かに想い続けているあの娘だって、「ステキよね〜」ってなる。「来週の体育祭、ヘラクレス君いればウチのクラス絶対優勝じゃん!」とか言って、女子は大盛り上がり。面白くねえ! でも僕だけじゃなく、男はみんなヘラクレスに嫉妬してたんでしょうね。

超コワ〜イ番長に目をつけられますよ。

 もう、先生を何人も病院送りにしてるような凶悪なヤツが、「ヘラクレスっておまえか? ツラかせや」的なこと言ってくるんですよ。

 で、ヘラクレス、ボッコボコにやられるんですよ。「超弱えー」とか言われて。ずっとうずくまってるから、僕も心配になって「だ、大丈夫かよ……。オマエなら余裕で番長倒せただろ? なんでやり返さなかったんだよ……?」とか訊くと、

あ、アリさんかばってた〜っ!!

 優しい……! なんて優しいんだ、ヘラクレス!! 「ケンカ……、シナイ。ケンカ……、キライ」とか言うんですよ。過去に色々あったのかな、とか思うじゃないですか。でも僕も素直じゃないんで、「ちゃ、ちゃんと体育祭までにケガ治しとけよ!」。  体育祭当日。各クラスがすごい接戦の中、最後の競技、ヘラクレスの出場は借りもの競走ですよ。

 スタートして、借りものが書いてある紙を拾うヘラクレス。紙を見るやいなや、

 突然、僕を抱き上げて走り出す!!  「な、なんだよ!?」。ヘラクレスにお姫様だっこされる僕に、観客が「ヒューヒュー!」「お似合いのカップルだぞ〜!」と冷やかして、もう顔真っ赤。「お、降ろせよ! 恥ずかしいだろ!」といくら言っても、ヘラクレスはガン無視して独走! そのままゴール!   1位を取れたのはいいけど、恥かいた! 「借りものの紙、なんて書いてあったんだよ!」とヘラクレスから奪い取ると、そこには、

 「親友」と……。
 ウワ〜ン!! ヘラクレス〜!! 冷たくしてゴメンよ〜!!

 ……というわけで、結局ヘラクレスと僕は仲良くなるわけですけど、こりゃモテますわ、ヘラちゃん(←仲良くなったからこの呼び方)。ただ、実際のヘラクレスがこういう、仁義に熱い男だったのかは難しいところです。「ヘスペリデスの黄金のリンゴを持ち帰る」という超難易度の高い仕事の時、ヘスペリデスの父親であるアトラスに、「リンゴを俺の代わりに取ってきてくれ」と頼むんですよ。でもアトラスは「天球を支える仕事」っていうのをやっていて「ムリだ」と。で、ヘラクレスはその仕事を代わってあげるから、リンゴ取ってきて、と頼んだんです。で、アトラスは無事にリンゴを取ってくるんだけど、再び天球を支えるのがイヤで、「俺が直接このリンゴ届けるわ〜」的なこと言うんですよ。でもヘラクレスは「マジ? じゃあもう少しラクな天球の担ぎ方教えてくんない?」と言って、アトラスが「ラクなのはねえ……」と天球を担いだ瞬間、ヘラクレスはリンゴ取って逃げたらしいんですよ! 仕事を遂行するためにはヘラちゃん、結構エグイ駆け引きするじゃん! まあアトラスの素直さもどうか、という気もしますが。でもきっと、自分のすごい好きな子を取られても、「ヘラちゃんならしょうがないか……」的になりそう! やっぱ憧れるわ〜。