大原大次郎(おおはら・だいじろう)/グラフィックデザイナー。1978年横浜生まれ。武蔵野美術大学卒業。独時の視点でつくり出すタイポグラフィは、CD、雑誌、書籍など、メディアの枠を越えて注目を集める。また、フィールドワークである『文字採集』や『MOZINE』の制作の他、ワークショップの開催など多方面で活躍中。http://omomma.in/

※1『文字採集』2009からスタート。コンセプトは、日常の何気ない風景の中から、文字を探し出す実験。

※2『少年タイポ』昭和60年ごろ大原さん宛の暑中お見舞い。時代の年月を経てかんじる懐かしさも。

※3 MOZINE 第2号『平野甲賀×平野太呂』20091年程前からスタートした『MOZINE』は毎号異なる体裁に。第2号は、タイポグラファー、平野甲賀さんと、その息子であり写真家、スケーターの平野太呂さん。甲賀さんの文字がレタリングされたデッキで太呂さんがスケートし、文字が削れて変化していく様子を、太呂さん自身が撮影。ページをめくるごとに文字が変化して行くドキュメンタリー写真集。

※4『文字くじ』2009『MOZINE』シーリーズ。つくりかたは、STEP1.古今東西さまざまな本のページから、無作為に切り取ったことばの紙片を包んだ「文字くじ」をひき、自分だけの「ぐうぜんのことば」を手に入れる。STEP2そのひいた「ぐうぜんのことば」を自由に組み換える。STEP3そこに自分のことばを加えながら切り貼りすることで、世界にひとつだけのミニZINEが完成。

風景から文字を採る『文字採集』で感覚を活性化。

—はじめに『文字採集』(※1)とは? 作品をつくりはじめたキッカケや経緯など教えていただけますか?

『文字採集』は、街中や自然の風景写真の中から、文字を探し出して記述する作品です。はじまりは“自意識をとる”練習といいますか…。

—“自意識をとる”といいますと?

グラフィックデザインの仕事をしていると、つい、つくりこみに集中しすぎてしまったりもするのですが、見る側にたったとき、デザインを勉強していない子供たちが書く、何気ない線や文字に驚くことが多いんです。僕の中では、そういう自意識に縛られていない文字を「少年タイポ」(※2)と定義をしていて、『文字採集』は、そういった文字を探しだす訓練的な感覚で。

—何かを伝えたいと思い、その伝える手段として生み出された文字がルール化されてしまった今、もう一度原点に返って考えてみるということでしょうか?

そういう面もあるかもしれないですね。その昔、文字が生まれた頃、人は自然の風景の中からのひらめきや感覚で、文字の原型を採集していたと思うんです。だけど僕らは、本やインターネットなどから、情報やグラフィックを膨大に得られる反面、目の前の芳醇な線を忘れてしまいがちなのではないかと。それを、縄文時代ではなく、平成の今でもやれるのではないかという実験なんです。
ただ、むりやり風景から文字を取り出そうとしているわけではなく、「最初に言葉ありき」なんです。言葉を思い浮かべながら、1枚の風景写真の中に入り込むと、おのずと形が見えてくる。誰でも楽しめるので、『文字採集』のワークショップを開いたりもしています。

文字が誕生した頃のような自由さで、思考をほぐす

—『文字採集』のワークショップでは、どんなステップをふむのでしょうか?

写真を沢山並べて、その中から好きな1枚を選んでもらい、トレーシングペーパーをかけて、なんとなく文字が見えたら、なぞってみる。見えてない線を足したり、自由に書いて大丈夫。ウソついちゃってもいいよと(笑)。たぶん、昔の人もそういう見えていない線も拾っていたと思うんですよ。画数や書き方の決まりがない時代もおそらくあって、そのくらい自由に考えてみてもいいんじゃないかと。

—ワークショップで、こんな線があったのかと逆に気づかされたりすることも?

ありますね。これは感覚的な訓練なので、後に応用編として、「自分の名前をデザインしてみよう」という課題をすすめていくと、驚きがさらに大きくなったりも。

—作品を見ていると文字が見えてくる瞬間に、ハッとしてしまうのですが、大原さんにとって『文字採集』の魅力とは?

頭で考えても出ない線や構成がでてくるコトが面白いなと。思考をほぐす作業といいますか。『文字採集』はフィールドワークですね。

友だち力から今へ

—『文字採集』の他にも、写真家の平野太呂さんのスケボーの文字が削れて行く様をおさめた『MOZINE』(※3)や、彫刻の文字、『文字くじ』(※4)など、さまざまな形で日本語の文字を表現されていますが、大原さんにとっての原点は?

小学校3年生の頃から、当時流行ったマンガなどを切り貼りして新聞をつくったりしていました。高校時代には仲間と音楽にはまって、サンプリングしたカセットテープのインデックスカードのデザインをしたり。高校3年のときに、仲間と出したCDのジャケットをデザインしたことが、はじめてお金をもらった仕事でした。

—高校3年生で!(当時のデザインの指定紙をみせてもらいながら)これは、スゴイ貴重ですね。ちゃんと、ココはこうしてと指示が。

当時は、デザインとは何かとかも分からなかった頃で。自分たちの仲間内のカルチャーとして、自分たちの中ではじまった遊びを、新聞にしてみたり。だんだん、受信から発信に変わっていくかんじで。たった5人でも見てくれれば嬉しかったというか(笑)。
テクノやヒップホップが好きだったんですけど、そのあたりの音楽の方法論や発想は、今につながっていると思います。身近なものを使ってるのに、発想をちょっと変えるだけで全然違う表現になったりするような。

変わったデザインの文字というより、
読むときのスピードを変える文字

—大原さんのデザインの文字を見ていると、絵画的にもとらえらえると思うのですが、どんなことを大切にしているのでしょうか?

例えば、彫刻刀で彫る場合だと、手慣れた自由な線から離れていきます。彫刻刀にかえることによって、いつもの線を出すことができず、かなり不自由な線になってしまうのですが、そこをあえてやってみたり。
他にもかなりガリガリしている表面に書いてみるとか、すらすら読めないようにしてみるとか、そういった偶然性が入り込む余地のある「他力」を楽しんだりしています。変わった文字をつくりたいというより、読むスピードを変えているという感覚です。

—頭の中で読むリズムが変わるとは!面白いです。確かに、ジーッと一文字一文字見いってしまいます。CLASKAでおこなわれたイベントでは、「ぐんぜんのことば」をつくる『文字くじ』のワークショップを開かれていましたが、最後に大原さんにとって、ワークショップや作品を通して伝えたいこととは…?

『文字くじ』は、さまざまな本のコトバを無作為に切り取り、その断片をくじびきのような形で2枚ひく。そして、その2枚の間に自分のコトバを付け加えて「ぐうぜんのことば」を完成させるというワークショップでした。急に面白いことばをつくって下さいとお願いしても難しいですが、こうした偶然性をひとつ盛り込むだけで、面白いことばがどんどん出て来る。普段の制作物でも考えていることですが、体験をしてもらったことで、自分の中での発見のようなことだったり、普段のモノの見方が少し変わるヒントや思考のきっかけを持ち帰っていただけたらウレシイです。